長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産と鐵川與助

2018/6/30 にユネスコ世界遺産に正式登録された 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」 は次の12件の要素で構成されています。

01.大浦天主堂 (長崎県長崎市)
02.外海(そとめ)の出津(しつ)集落 : 出津教会と出津集落 (長崎県長崎市)
03.外海の大野集落 : 大野教会と大野集落 (長崎県長崎市)
04.原城址 (長崎県南島原市)
05.黒島の集落 : 黒島天主堂と黒島集落 (長崎県佐世保市)
06.平戸島の聖地と集落 : 安満岳と春日集落 (長崎県平戸市)
07.平戸島の聖地と集落 : 中江ノ島 (上陸禁止,長崎県平戸市)
08.野崎島の集落跡 : 旧野首天主堂,野首集落跡,舟森集落跡,etc. (長崎県北松浦郡小値賀町)
09.頭ヶ島の集落 : 頭ヶ島天主堂と頭ヶ島集落 (長崎県南松浦郡新上五島町)
10.久賀島の集落 : 旧五輪教会と久賀島の集落 (長崎県五島市)
11.奈留島の江上集落 : 江上天主堂と周辺 (長崎県五島市) > 2019/3/12 奈留島自転車旅行記を見る
12.天草の崎津集落 : 崎津教会と崎津集落 (熊本県天草市)
これらの世界遺産の見学は原則として事前定員予約制となっているのでご注意!
これらの構成資産だけでも4件に関わっている大工棟梁 : 鐵川與助 (てつかわ・よすけ,1879~1976) の名前を初めて知ったのは1980年頃のことだったと思います。 九州の西洋建築を紹介する本の中で今村教会(福岡県三井郡大刀洗町)をはじめ各地に教会を建てた大工として彼の名を知りました。 建築リストを見ると興味が膨らみあれこれしらべるうちに,アカデミズムの世界に生きる 「建築家」 と違い職人である 「大工棟梁」 の彼の仕事が正当に評価されていないのではないかという疑念が湧き,以来機会ある毎に行ける範囲で彼の建てた教会を訪ねてきました。 それが世界遺産登録で彼の仕事が一躍注目されることとなり,これまで足の遠かった五島にも足を運んでみようと思い立ち,2018/11/20(火) 友人二人を誘い三人で野崎島の 「旧野首天主堂(煉瓦造 1908)」 と頭ヶ島の 「頭ヶ島天主堂(石造 1919)」 を訪ねました。 さすがにキリシタン達が迫害を逃れて隠れ住んだ場所だけあって,交通の発達した今日なお行き来するのが大変な所ばかりで,旅程を立てる専門家のアームチェアトラベラーの方々にとっても手強い旅先です。
時計の針を10時間ほど巻き戻します。 ここは博多港。 港に隣接した 「みなと温泉 波葉の湯」 で汗を流してから 23h45 発五島行夜行フェリーに乗船。 最初に訪ねる野崎島にはこのフェリーが立ち寄る小値賀島から朝と午後に町営の定期船が通っているのですが,小値賀島への到着が翌日早朝 4h40,朝の定期船の出発が 7h25,寝不足に加えて微妙に長時間待機を余儀なくされる出来の悪いスケジュールです。 もうひとつの経路は,小値賀島の次にフェリーが立ち寄る中通島の青方港まで行き(5h40),手配しておいたレンタカーで中通島北端の津和崎港に移動(29km),海上タクシーで野崎島を往復(3人で9千円)するというもの。 1日で野崎島と頭ヶ島の両方を訪ねたい欲張りな私達にとって,海上タクシーを奮発しても尚お釣りの来る魅力的な旅程です。 もちろん後者の旅程を採用! 中通島の青方港には定時 5h40 到着。 事前に手配しておいたレンタカーで (レンタルアンドリース浦,長崎県南松浦郡新上五島町青方郷1599-1,TEL 0959-52-2088) 29km 北の津和崎港を目指します。 途中,中通島で唯一24時間営業のポプラコンビニ浦桑店で朝食を調達。 中通島北部の細長い地形 を縫い,日の出を拝みながらゆるゆると北上します。
野崎島は現在無人島となっているので安全管理上,入島/離島の届け出が義務付けられています。 届け出自体は島唯一の港:野崎港に設けられ必ず通過する管理事務所で確認するので何ら問題ないのですが,天候その他の理由で当日の訪問客を受け入れない場合があるため,入島管理と連動して運行される小値賀町営渡船以外の交通手段で野崎島に入島する訪問者は午前9時の管理事務所業務開始を待って事前に予約していることを告げた上で当日の訪問客を受け入れていることを確認してから出発する必要があります。 私達も 7日前迄に訪問を予約し ,当日午前9時に管理事務所に電話で受入状況を確認した上で津和崎港を出発しました。 海上タクシー 「津和崎丸(TEL 090-6774-4313)」 は津和崎港~野崎港(5km) を20分で快走。 途中,野崎島南端の 「舟森集落跡」 の近くを沖から眺めますが,断崖に石垣を積んで平地を造成し住宅地や耕作地としていたキリシタン住民達の置かれた厳しい環境を目の当たりにして胸が熱くなりました。
旧・野首天主堂野崎島の野崎港に上陸後,野首集落まで 2km の道は起伏に富んだ歩道で,脚力に自信のない方は片道40分程みておいた方がよいでしょう。 旧・野首天主堂はキリシタン集落野首の住民達17戸が爪に火を点すような節約生活で貯めた浄財で建設されました。 明治41(1908)年に完成した教会は鐵川與助が棟梁としてはじめて手掛けた教会建築で煉瓦造の大変美しいものですが,無人島となった今もかつての住人達の熱い信仰を静かに伝えています(天主堂正面は南南東向き)。 なお天主堂という呼び方は 天主教と訳されていたカトリック教会堂を指す古い名称です。

なお 旧・野首天主堂および鐵川與助の業績詳細については 喜田信代著 「天主堂建築のパイオニア・鐵川與助 ― 長崎の異才なる大工棟梁の偉業」 日貿出版社 2017年刊 を是非ご一読下さい。
旧・鯛ノ浦教会野崎島滞在時間たった2時間という慌ただしいスケジュールを終え,後ろ髪引かれる思いで津和崎港に引き返した私達は港に駐めておいたレンタカーを駆り一路頭ヶ島を目指します。 途中でちょっと寄り道をして世界遺産ではありませんが旧・鯛ノ浦教会を見学。 鯛ノ浦集落は中通島の往年の中心地で島の東岸に位置しています。 ここ旧・鯛ノ浦教会は明治36(1903)年,大工見習いとして建設に参加した鐵川與助が昭和21(1946)年の改築工事に際し棟梁として木造教会正面に煉瓦造の鐘楼を増築したもの。 昭和54(1979)年に鉄筋コンクリート造の現教会にバトンタッチした後,この旧・鯛ノ浦教会は資料館および集会所として公開されています。 注目すべきは増築鐘楼建材として使われている煉瓦。 実はこれ,爆心下で崩壊した長崎市浦上天主堂の廃材煉瓦を鯛ノ浦に運んで再利用したものなのです! 終戦直後の資材不足でやむを得ず廃材利用したのか,それとも何らかの意図を持って被爆煉瓦を後世に伝えるべくここに再建したのか,與助は真意を明かさぬまま亡くなってしまったので今や知る由もありません。
頭ヶ島天主堂頭ヶ島は中通島東北部に隣接した周囲 9km ほどの小島で,同島東部に上五島空港が作られ頭ヶ島大橋で中通島と結ばれているので世界遺産の頭ヶ島天主堂には車で行くことができます。 但し天主堂集落には駐車場がないことに加え住民の静かな暮らしを守るため,ここも見学は事前定員予約制 となっています。 訪問者は事前に日程と時間帯(30分コマ)を予約した上で,現在は休業中の上五島空港駐車場に車を駐め,シャトルバスで頭ヶ島天主堂まで移動します。 頭ヶ島天主堂は與助50歳の大正8(1919)年建立。 同島北沖 500m ロクロ島で産出される加工容易な砂岩石材を信者自ら切り出し(経費節約の意図もある)それを組んで作られた日本では非常に珍しい石造の教会堂です。 煉瓦造や石造といった耐震性に疑問符の付く建造物を日本で世界遺産に登録したからにはキッチリ耐震補強を施して未来に継承したいものです。 この教会,正面が北向きで東南西の三方を山に囲まれているため写真撮影がなかなか厄介です! 太陽の低い冬場は日光が山で遮られない 10h00~14h00 の訪問見学をお薦めしておきます。
この前年 2017/5/24 には上の五島行と同じメンバーで天草崎津教会を訪れています。 当日は生憎陽光に恵まれなかったので事前に(4/23)ロケハンしておいた写真を1枚ご紹介。

熊本県天草市河浦町崎津集落も世界遺産を構成する12資産の一つです。 集落の中心には崎津教会がありますが,ここは江戸時代に禁じられていたキリスト教の信者を炙り出すために 「踏み絵」 が行われていた庄屋宅跡地。 明治初頭禁教令が解かれた後に建てられた教会は(1880年)現在地から少し離れた位置にあったのですが昭和2(1927)年に赴任してきたハルブ神父達ての希望で古の殉教の地跡に教会を移設することになり同9(1934)年,與助の手で完成。 以後宗教の違いを超えて地域の氏神:崎津諏訪神社とカトリック崎津教会の間では折に触れて交流行事が行われています(明治中期には崎津集落の9割がカトリック信者だった由)。 そんな共生・相互理解を象徴するような1枚になればと思い,崎津諏訪神社の鳥居越しにカトリック崎津教会を望む構図で撮影しました。 宗教間で無益な諍いのない平和が末永く続いてほしいと思います。 鳥居は 2016年の熊本地震で一部倒壊したものを補強再建してあります。
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